これらの電子機器もその多くは内部にクロックと呼ばれる数Vの高周波パルスを使用し、それ自体微弱な電磁波を発生してはおりますが、より問題となるのは電磁波など外部からのノ イズに対する自己防御能力が低い電子機器において、しばしば誤動作を起こす事があるという事です。大パワーの違法無線の電波で石油ストーブが勝手に点火して火災になっ たとか、パソコンからの電磁波でテレビの画面に横縞が入ったとかいう話はともかく、 工業用高周波装置の影響でロボットが誤作動したり制御回路が誤動作するようでは、まともな生産活動はおろか、作業者の身体・生命への危険をももたらしかねません。高周波装置の側からいえば合法的な手続きを経て設置され、技術的にも構造的にもなんら問題のない装置であっても、周辺に自己防御能力の低い機器が存在し、受信機でもないのに勝手に電波(電磁波)を受信して誤動作するという事実があり、しばしば高周波装置の側に責任を押しつけられる傾向があるのは不合理と言わざるを得ません。
この自己防御能力は電子機器の製造メーカーによって顕著な違いがあり、電磁波があふれる現在の状況をどれだけ真面目に考慮して機器を設計・製造したか、にかかっていま す。たとえば制御回路の中心部分であるプログラマブル・シーケンスコントローラにつ いていえば M社,O社,F社,N社,N社などの製品を我々高周波機器に組み込んで比較すると高周波の影響を排除する能力において現実にかなりの差が存在しています。もちろん民生用機器に較べ信頼性の高いこの様な工業用機器においても価格／コストの問題は切実なはずであり、過剰な性能を期待するつもりはありませんがすべての機器が工業用高周 波装置と共存可能なレベルにあるとは言えません。民生用の機器である電話、ＦＡＸ、エアコンなどに於いてはコストが最大の課題であり、その多くは高周波に対する自己防御能力が工業用機器に較べいっそう貧弱なもので、トラブルもよく発生します。しかし良心的なメーカーでは充分とは言えないまでもそれなりに対策を講じてあり問題の発生を抑えているものもあります。
ヨーロッパ(EC諸国)ではEMC指令として電磁波の放射に対 する規制と同時にこの自己防御能力(ノイズイミュニティ)が機器の重要な性能のひとつ としてCEマーキングの対象となっており 30MHz-500MHz に於いて 3V/m(=129.5dB)の電界に耐える事を要求しています。この数値は高周波装置と電子機器との共存を図っていく ためには決して過大ではない実現可能な値と考えられ、既に95年以降EC諸国に向けて輸 出されている機器はこの条件を満たしてCEマーキングを実施しているはずです。 (89/336/EEC,92/31/EEC,93/68/EEC,EN61000-4-3)

工業用高周波装置の側では、法の規定する「3-1 最大許容値を定めない周波数帯」(=ISM 周波数)に於いても、無制限の電磁波放射が周辺機器に過大な自己防御能力を要求するこ とになりかねないため極力放射を抑える構造を採用していますが、前項で述べたように アプリケーションによっては完全な遮蔽構造が取れない場合もあり、装置近傍で100〜 120dB程度の電界強度となっています。
我々の経験として電子機器の多くは電界強度が 120dB附近から高周波の影響が現れ始めるため、機器の配置・配線引回し・ノイズフィル タの追加などの対策が必要となります。工業用高周波装置の内部に於いても当然ながら 電子化は進行しており、同様な対策によってマイクロコンピュータやICロジック回路、 OP-AMPによるアナログ演算などが「自家中毒」を起こす事なく正常にその機能を発揮しています。

 弊社では永年の研究と実施例により、電子機器への電磁波による防護についての充分なノウハウを蓄積しており、装置ユーザー各位に対して状況に見合った最適な技術を提供する事が出来ます。 国際無線障害特別委員会(CISPR)ではISM周波数帯についても、放射する電磁波について無制限な自由放射に換えて上限値の設定を検討しており、125〜145dBという値が提案されています。この値は通常のアプリケーションでは充分に満足できる値ですが、シールド等の放射対策を簡単には施せない一部の全く特殊なアプリケーションについては使用を制限せざるを得なくなるかもしれません。